第36章 心に灯る火
夕食の準備をしていると、ガチャリ! と元気よく玄関が開く音がする。
その音だけで、とても楽しかったんだってことがよくわかった。
「母さん、ただいまー!」
思ったとおり、充実感に溢れたコハクの声が聞こえる。
「おかえりなさい。」
笑顔で振り向くと、ぞろぞろとみんなが家の中に入ってくる。
「あー、腹減った。モモ、今日のメシはなに?」
「シチューよ。」
「やった! おれ、シチュー大好き!」
「母さんのシチューは、世界一おいしいぞ。」
「マジか! 楽しみッス~。」
さっきまでの静けさが嘘みたいに、あっという間に賑やかさが帰ってきた。
「あれ、母さん、ローは?」
家に残ったはずなのに、リビングにはモモとヒスイしかいない。
「向こうで寝てるわ。」
モモの指が病室を差す。
「「ええぇッ!?」」
その言葉に驚いたのは、コハクではなく海賊たち。
「ビ…ックリすんなぁ…。なんだよ、みんな。」
別にローが昼寝したっていいじゃないか。
「いやいや、船長が昼寝って…なにがあったんだよ。」
「しかも他人の家で…。あり得ないな。」
「もしかして、睡眠薬でも飲ませたんスか?」
口々に驚きの声を上げるみんなに、むしろコハクの方が驚いた。
「ローって、そんなに寝ないのかよ。」
「寝ないねぇ。寝ても誰かの気配ですぐに起きるっていうか…。眠りが浅いんだよ。」
ベポの言葉に、だからあんなに目つきが悪いのか…と勝手に納得した。
「ああ、でも、もう夕飯が出来上がるから、そろそろ起こしてきてもらえる?」
「アイアイ!」
パタパタとベポが病室へと駆けていった。