第36章 心に灯る火
「おい、そろそろ日暮れだ。戻らないか?」
ひょっこり操縦室に顔を出したジャンバールが、日が傾いてきたことを伝えると、コハクは驚いて窓から空を見上げた。
「え、もうそんな時間?」
あんまりにも楽しかったものだから、空の色など全然気にしてなかった。
「んじゃ、モモが心配するといけないし、そろそろ帰るか。」
「うん。いつまでもローと一緒じゃ、母さんもヒスイも可哀想だもんな。」
「……。」
コハクの言葉に、シャチとジャンバールは互いに目を合わせる。
実は、ローに家で本でも読んで待っていたら? と提案したのは、この2人だ。
(いやー、だって…。もしかしたら、もしかしたらだけど、進展するかもしれないじゃん?)
(なにがあるかはわからんが、船長には幸せになってもらいたいものだ。)
のん気なベポとマイペースなペンギンは役に立たない。
ここは頼れるお兄さん組の自分たちが どうにかしなければ…!
グッと気合いの拳を作れば、コハクが不思議そうに見上げてくる。
「……? シャチ、早く行こうよ。」
「ハッ…、悪い悪い。ってか、ベポとペンギンは?」
さっきまで一緒に船の説明をしてたのに、いつの間にかいない。
「ベポはデッキで昼寝をしてたし、ペンギンは食料庫にトカゲ肉を運ぶついでに、酒を飲んでいたぞ。」
「あ、アイツら…。」
ほら見ろ、やっぱり頼りにならん!
「海賊って…自由なんだなぁ。」
ポツリとした呟きには、どこか羨ましさが宿っているように思えた。
「おう、自由だ。…お前も一緒に来るか?」
ほんの冗談のつもりだったが、シャチの言葉にコハクはビクリと身体を震わせた。
「……行かないよ。オレがいなくなったら、母さんはひとりぼっちだ。」
モモを守ることだけが、自分が優先すべきこと。
だから、一緒に行きたいだなんて…思ってない。
「コハク…。」
シャチとジャンバールは、コハクの瞳にほんの一瞬、迷いの光がキラリと輝いたのを、かいま見た気がした。