第35章 歌とぬくもり
擂り鉢の中に数種類の生薬を入れ、ゴリゴリと擂り合わせた。
生薬の固さによっては、けっこう力のいる作業だし、集中しないと擂り具合が均等にならず、バラつきが出てしまう。
だから、しっかり集中しないといけないのに…。
(ああ…。)
モモは心の中で そっとため息を吐いた。
テーブルを挟んで向かい合わせに座っているから、どうしても視界にローが入る。
(か、格好いい……。)
なんだか無性にドキドキするんだ。
彼と2人きりになるのは、これで3度目。
だけど、1度目は夢だと思っていたし、2度目は暗闇だったから、こうして本当に2人きりを意識するのは初めてのこと。
6年経てば、人は変わる。
彼も変わった。
記憶の中より精悍な面立ちとなり、身体つきも逞しくなった。
なにより、打倒ドフラミンゴの願いを成し遂げたせいだろう、雰囲気もずいぶん違う。
そのどれもが、ローの魅力を引き立てる。
(素敵…。)
『米粒ほども興味ねェ。』
ふと、先ほどの言葉が思い出された。
それは…仕方のないことだ。
モモにとって、ローは宝物のような存在だけど、彼にとってはそうじゃない。
きっと彼はこの6年で、自分ではない女性に触れただろう。
もしかしたら、誰かを愛したかも…。
今も恋人がいるかも…。
だって、彼は素敵な人だから。
(好きにならない方が…、おかしいわ。)
彼の愛した人は、どんな人かな?
優しい人?
綺麗な人?
強い人?
わたしとは違って…。
他の誰かを愛して欲しい。
そう願ったのは他の誰でもない、モモ自身なんだから、ここで胸を痛めるのは違うと思う。
だから胸が痛いなんてこと、ただの勘違いなんだよ。