第35章 歌とぬくもり
シュンシュン…。
ヤカンが蒸気を上げる音に目を向ければ、キッチンでモモがお茶を淹れているのがわかった。
きっと、ローのためだろう。
「……。」
こうして2人でいると不思議だ。
落ち着くような、落ち着かないような…。
まったく正反対の気持ちが混じり合う。
自分はいったい、彼女をどう思っているのだろう。
じーっ。
「……。」
ヒスイがこちらを瞬きもせずに見つめてくる。
そもそも瞬きをするかどうかもわからないけど。
変な生き物だ…。
「きゅー。きゅくきゅいっきゅ。」
「きゅきゅ。きゅう…きゅいきゅう?」
イヤ、わからねェよ。
小さな手で身振り手振りし、しきりに話しかけてくるけど、なにを言っているのかサッパリだ。
モモやコハクなら、この意味不明な言葉を理解できるのか。
あるいは、ベポならばわかるのだろうか。
「きゅきゅぅ…。」
伝わらないことがショックだったのか、ガックリとうなだれる。
「……仕方ねェだろ。」
ローは人間の言葉しかわからないんだから。
「…なにしてるの?」
ティーポットとカップを持って、モモが戻ってきた。
「きゅい…。」
「あら、ヒスイ。なにをしょぼくれてるの? ビスケット食べる?」
お茶菓子のビスケットを1枚差し出すと、しょんぼりしながらも小さな手で受け取った。
美しい白磁のカップ2つそれぞれに、琥珀色のお茶を注ぐ。
ふわりと あの香りが漂う。
「…なんの茶だ。」
「カモミールティーよ。…あ、カモミールは嫌だった?」
「イヤ…。」
むしろ…。
モモはカモミールティーにリリアスの糖蜜液をスプーン1杯入れると、くるくるとかき混ぜる。
鎮静効果のあるカモミールとリリアスはとても相性が良い。
これで少しでも彼の疲れが和らぐといいのに。
「どうぞ。」
ビスケットと共にローにお茶を差し出すと、彼はそれをひと口飲んでくれた。
「…悪くねェな。」
それって美味しいってことでしょ?
素直じゃない彼の、そんな言い方が懐かしくて嬉しかった。