第35章 歌とぬくもり
ど、どどど、どうしてローがここに!?
コハクたちと一緒に船へ行ったんじゃなかったのか。
「……ひあッ!」
いないはずのローの存在に、あんまりにも驚いたものだから、ビクリと身体が跳ね、思いっきり仰け反ってしまった。
ガンッ!
その反動で戸棚に後頭部を強打した。
「~~ッ!」
脳が揺れるほどの衝撃と痛みに、声もなく身悶え、へたり込んだ。
「…ハァ、ひとりで忙しいヤツだな。」
上から呆れたような声が落ちてくるけど、いったい誰のせいだと思っているのか。
「……ッ、船に戻ったんじゃ…なかったの?」
ズキズキと痛む頭に手を添えながら、涙の滲んだ瞳で見上げた。
「別に全員でゾロゾロ行くもんでもねェだろ。面倒くせェ。」
コハクの相手はベポたちに任せればいい。
子供は苦手なのだ。
だから、そう…。
決して、さっきの発言を気にしているとか、ましてや謝りたいとか…、そういうことはではないんだ。
誰に聞かれているわけでもないのに、ローは己の中で必死に言い訳をつけた。
(まあ、そうよね。ローって子供が苦手そうだもん。)
彼ほど子供とのツーショットが似合わない人はいないと思う。
目つきの悪い顔は その気がなくても泣き出されそうだし、赤ん坊を抱く姿など、想像もできなかった。
もし、コハクが生まれたとき、彼が傍にいたのなら…。
いったいどんな反応をしただろうか。
やはりローでも、我が子の誕生には感動してくれたりするのかな?
その腕に、抱いてくれたかな?
(止めましょう…。“もしも”の話を想像するのは。)
たぶん、悲しくなるだけ。
なんて勝手な女なんだろう。
記憶も、我が子との時間も。
彼から何もかもを奪っておいて、それなのに自分は傷つくのが怖いだなんて。
自分のズルさが、吐き気がするほど嫌いだ。