第35章 歌とぬくもり
「あと3日かぁ…。おれ、もう元気だよ?」
「ダメよ。もしかしたらまだ体内にウイルスが残っているかもしれないでしょう。」
下手に海へ出て、再発したのでは取り返しがつかない。
1日でも早く彼らを海へ送り出したいのはモモとて同じ。
でも、ベポの病気が完璧に治ってからじゃないと行かせてはあげられないのだ。
「決まりだな。…出航は3日後だ。」
ローもモモの意見に賛同し、船の出航は彼女の言うとおり、3日後に決まった。
「それじゃあさ、コハク、ウチの船でも見にくる? おれ 案内するよ。」
「えッ!」
せっかくの機会だからと誘われ、コハクは目を輝かせる。
昨日、ベポの容態を確認するために初めて海賊船へと足を踏み入れた。
あの時は船を見て回る余裕なんてなかったし、そんな状況でもなかった。
だけど、初めて目の前に現れた海賊船に、本当は胸がドキドキと高鳴っていたのだ。
「行く…!」
コハクは興奮した面持ちのまま、2つ返事で答えた。
「よーし、んじゃ俺が操縦の仕方も教えてやるよ。」
「本当!?」
頬を紅潮させて見上げてくるコハクは、こうやって見れば年相応の子供。
まるで弟ができたように感じて、シャチは嬉しくなった。
「母さんも行こうよ!」
「わたしはいいわ。まだやることがあるし…。あなただけで行ってらっしゃい。」
あの潜水艦に乗る資格は、自分にはない。
一度足を踏み入れてしまったが、もうこれ以上、彼らの領域に入るつもりはないのだ。
コハクは一瞬どうしようか迷う素振りを見せたが、せっかくの機会を無駄にするのはもったいないと思い、首を縦に振った。
「わかった。じゃあちょっと、行ってくる! ヒスイ、ちゃんと母さんの手伝いをしろよな。」
「きゅきゅ!」
モモの手伝いをヒスイに任せ、コハクはみんなと外へ出て行った。