第35章 歌とぬくもり
コハクには、夢がある。
それはモモにも内緒の、コハクとヒスイ、2人だけの秘密。
どうしてモモに秘密にするかって?
だって、それをモモに打ち明けても、困らせるだけだと知っているから。
コハクは、母と夢とを天秤にかけたとすれば、迷わず母をとる。
モモ以上に優先させなきゃいけないことなんて、なにもないのだから。
母さんは、オレが守るって決めたんだ。
夢は、なにも叶えるものだけじゃないだろう。
だから自分はこうやって、ただ憧れを抱くだけでいいんだ。
叶わなくたって、いいんだ…。
「きゅうぅ。」
本当にこれでいいのかな?
ヒスイはたまにわからなくなる。
愛した人を想い、贖罪のために自由を捨てたモモ。
そしてそんな母を想い、夢を捨てるコハク。
互いに幸せだと言う2人。
でも、それって…本当に幸せなのかな?
モモの歌によって生まれ、大切に育てられたヒスイは、モモのことを愛してる。
出産に立ち合い、コハクがこの世に生を受けた瞬間から彼を見守るヒスイは、コハクのことを愛してる。
愛する2人には、世界で1番幸せになって欲しい…。
そのために、自分ができることは なんだろう。
2人のためなら、なんだってするのに。
今、この家には、外から来た新しい風が吹いている。
このままじゃ…いけないんだ。