第35章 歌とぬくもり
ガチャ…!
玄関のドアが開く音が響いた。
「うわ…、けっむ…! ちょ、母さん! なんだよこの煙!」
コハクの叫び声に、モモはハッと部屋の惨状に気がついた。
そうだった!
窓を開けなくちゃいけなかったんだ!
「やだ…、忘れてた! コハク、窓開けてー!」
慌ててコハクに頼んだけど、彼は言われるよりも先に窓を開けていた。
「なんで今まで気がつかないんだよ…。ていうか、ロー! アンタもいるなら、ちゃんと母さんのこと見ててよ!」
モモのドジっ子スキルはハンパないんだから!
「…って、ロー? なに固まってんだよ。」
驚いたように固まるローを、不審そうに見上げる。
(俺は今、なにをしようとしていた…?)
さっき、もしもコハクが玄関を開けていなかったなら、今頃なにをしていただろう。
自分のとろうとした行動が信じられず、愕然としたまま動けない。
「……?」
変なヤツだな…。
海賊って、みんなこんなに おかしなヤツらばっかりなんだろうか。
思えば彼の仲間も、変わった連中ばかりだ。
でも、そんなふうにみんなでバカをやれる彼らが、コハクは少しだけ羨ましかった。
「コハク、もうゴハンができるから、そろそろヒスイを起こしてきてね。」
昨夜の飲みすぎのせいで、未だ眠るヒスイ。
「なんだ、アイツ…。まだ起きてなかったんだ。」
寝坊してモモを手伝わないとは、なんてヤツだ!
コハクはすぐさま自室に駆けていった。
「おい、ヒスイ! 起きろよ!」
「きゅ、きゅうぅ…。」
部屋に飛び込んだコハクは、寝床で眠るヒスイを文字通りたたき起こした。
「なあ、聞けよ。すごいビッグニュースがあるんだ!」
「きゅ…?」
眠たい目を擦りながら見上げると、コハクはキラキラと瞳を輝かせて話しかけてくる。
「なんだと思う?」
「きゅい?」
まったく検討もつかない。
まさか、父親がバレたわけじゃあるまいし…。
「トラファルガー・ローだよ!」
「きゅ!?」
え、本当にバレたのか!?
ドキリとしたヒスイの身体が軽く跳ねた。
「アイツ、医者なんだって…!」