第35章 歌とぬくもり
自分には、ひとつの“障害”がある。
それはいつからのことだろう。
ローが、女に興味が持てなくなったのは…。
昔は違ったと思う。
恋や愛なんて くだらない感情はないにしても、付き合った女は少なくなかったし、航海の途中、欲望を吐き出すために適当な女と身体を重ねたこともあった。
それがいつからか、女を見ても、まるで欲情しなくなった。
一応言うが、不能というわけではない。
きちんと男としての機能はしているが、ただ、女を見てもなにも感じず、反応しないだけ。
むしろ、そういう目で見てくる女がキツイ香水を漂わせて しなだれかかってくると、吐き気すらする。
これはある種の病だと思ったが、別に女を抱かなければ死ぬわけでもない。
このことについて、ローは特別気にしたりせず、むしろ面倒な付き合いが減って良かったとすら思った。
女とは、面倒で煩わしい生き物。
関わらないに こしたことはないのだから。
それが、どうしてだろう。
なぜ自分は、目の前の彼女のことだけは、同じように思えないのか。
涙を見れば動揺するし、笑顔を見れば温かくなる。
機嫌を損ねれば宥めたいし、危ないことをすればハラハラする。
自分の方を見て欲しい。
名前を呼んで欲しい。
傍に、いて欲しい…。
ふと、ぷっくりと艶やかな唇に目がいった。
きっと、ため息が出るほど甘いのだろう。
触れてみたい…。
そんな衝動は、ひさしぶりだった。
掴んだままの顎を寄せ、食べてしまおうか…と思ったその瞬間--。