第35章 歌とぬくもり
ああ、そうだった…。
自分はせっかくの冒険の出鼻を挫いてしまったんだ。
「空気が読めないうえに、身体の弱いクマでスミマセン…。」
状況を思い出し、落ち込んだベポはベッドにガクリとうなだれた。
その変わらぬ姿に、モモは思わず笑みを零してしまう。
「ふふ、大丈夫よ。元気になって良かった。みんな心配してたんだから。」
「みんな…? そうだ、キャプテンたちはどこ行ったの?」
そもそも、彼女は何者なんだろう…。
「ローたちなら今、食事の支度を手伝ってくれてるの。じきに大きなエモノを仕留めて戻ってくるわ。」
「…エモノ?」
「ここはシルフガーデン。この島でわたしは、薬剤師をしているの。」
起きたばかりで状況が掴めずにいるであろう彼に、ハートの海賊団が島にきてからのことを話し伝えた。
「そっか、じゃあモモが おれの病気を治してくれたんだね! ありがとう!」
「ううん、たいしたことはしてないわ。それより、具合はどう? 何日も寝ていたから…。どこか不調はない?」
「全然! おれ、そんなに寝てた? すっごく元気なんだけど…。」
ホラ! とベポはベッドから起き出し、ピョンピョンと跳ねた。
巨大なクマが跳ねると、ドシンドシンと床が軋み、小さな地震が起きる。
「きゃ…ッ、わ…わかったから…!」
「あ、ゴメン。…でも、ね? 元気でしょ!」
元気いっぱいに動き回るベポに、モモは苦笑する。
どうやら癒やしの歌が効きすぎたみたい。
とても今朝まで病人だったクマとは思えない。
(良かった…。)
わたしの歌は、大事な人を助けることができる。
その事実がなにより嬉しかった。