第35章 歌とぬくもり
歌が、聞こえる…。
あたたかい歌。
ベポは人間の歌をよく知らない。
知っているのは仲間のシャチとペンギンが酔っ払ったときに唄う、海賊の歌くらい。
でも、この歌は違う。
そんな歌とは比べものにならないくらい、美しい。
それなのに、なぜだろう。
とても懐かしい気持ちになるんだ…。
「……うぅん。」
心地よい微睡みの中、ベポは目を開けた。
なんだか、ずいぶんと長い間、眠っていた気分だ。
(あれ、おれ…いつから寝ていたんだっけ?)
眠る前の記憶があやふやで、よく思い出せない。
そして今、目に飛び込んでくるのは、見慣れぬ天井。
(ていうか、ここ…船じゃない?)
船の雰囲気と全然違うし、波の揺れが全然感じられない。
「……?」
不思議に思ってクルリと視線を動かすと、すぐ傍で誰かが椅子に座っていることに気がついた。
(……女の子だ。)
金緑色の瞳が印象的な、とても可愛い女の子。
でも、なんで自分の傍にいるのかわからなくて、キョトンと目を瞬かせてしまう。
そんな彼女と目が合うと、ふわりと優しく微笑まれた。
「おはよう、ベポ。」
「ええっと…、君は誰?」
目を覚ましたベポが首を傾げて尋ねてきた。
当然、彼の中に自分の記憶はない。
「わたしはモモよ。」
「モモ? おれはベポだよ。」
(おれ…。)
自分のことを“ボク”ではなく“おれ”と言ったベポ。
あの頃より大人びた彼に、6年という年月の長さを感じた。
「ここ、どこ? 君の家?」
「そうよ。あなた、病気にかかったの。覚えてる?」
「病気…?」
ああ、そうだ。
思い出した。
ローの使命でもあった、打倒ドフラミンゴをようやく果たし、合流をしたハートの海賊団。
本当の意味で自由となったキャプテン。
そんな彼と、どこまでも旅をしよう…。
そう思った矢先の出来事だった。
自分が倒れてしまったのは…。