第35章 歌とぬくもり
「……医者?」
隣を歩くコハクが、ポカンと口を開けたまま呟いた。
「ロー。アンタ、医者なのか?」
「ああ。」
そういえば言っていなかっただろうか。
モモがローを医者のように扱うので、当然コハクも知っているものと思ってた。
「海賊なのに…、医者なのか?」
「海賊にだって色んなヤツがいんだよ。俺は海賊である前に、医者だ。」
どっちがどっちと切り離せるものではないが、海賊か医者かを取れと言われたら、自分は間違いなく医者をとる。
「そっか…、医者なんだ…。」
そうブツブツと言うコハクの頬は、なぜか高潮しているようにも見える。
「医者だったら、なんかあんのか?」
「べ…ッ、別になんでもねーよ!」
そんなふうに言い返してきた彼は、なぜだか少し慌てたように見えた。
無駄話をしたせいで、戻ってくるのに余計な時間が掛かってしまった。
早いところ、このトカゲを捌いてしまわないと。
これだけの大きさだ。
モモたち親子はもちろん、自分たちの船にも肉を積み込むことができるだろう。
食料確保はできるうちにしておいて損はない。
とりあえず血抜きをしようと、スラリと鬼哭を抜いた。
「ロー、オレもなんか手伝うか?」
「いい。離れてろ…。」
手伝いを買って出てくれたことは助かるが、
万が一、トカゲが起き出してケガでもしたら大変だ。
「アイアイ、それなら おれが手伝うよ!」
「ああ。頼む、ベポ。」
って、ベポ…?
絶妙なタイミングで話に介入してきたのは、まぎれもなくベポの声。
振り向くと、ハートの海賊団を導く航海士がニコニコと笑いながら立っている。
「キャプテン、おはよう!」