第35章 歌とぬくもり
このままでは、家に帰るまで強請られそうだ。
「チ…ッ」
“シャンブルズ”
「……わ!」
クルリとローが手を回すと、コハクの位置が一瞬で変わり、彼を驚かせる。
「すげぇ! 今のって、瞬間移動?」
「気は済んだか。もう、やらねェぞ。」
噂には聞いていたけど、悪魔の実って、本当に魔法が使えるんだ。
コハクのローを見る目が、一気に尊敬を帯びるものへと変わる。
男というのは、いくつであろうと夢やロマンに弱いもの。
こんな無人島で育ったコハクにとってはなおさらだ。
魔法が使えるローのことが、憧れの塊のように思えただろう。
「なぁ、じゃあ後でまた見せてくれよ。」
「しつけェな、お前も…。ダメだ、ベポの容態が気になる。」
回復に向かっているとはいえ、完全に回復しない限り、いつ悪化するとも限らないのだ。
「大丈夫だよ。あのクマだったら、今頃…--!」
今頃、モモの歌で目を覚している。
ついうっかり口を滑らせたコハクは、自分の言おうとしたことに途中で気がつき、ハッと口を閉ざした。
「…今頃、なんだ?」
ローが追求すると、途端に目を泳がせる。
「べ、別に…。今頃…もう目を覚ましてるんじゃないかなって思っただけだよ。」
確かに目を覚ましてもおかしくはないが、しどろもどろに答えるコハクがなんだか怪しい。
「お前、なにか隠してんのか?」
「……そんなわけねーだろ。オレがなにを隠さなきゃいけないんだよ。」
まあ、それもそうだ。
コハクが隠し事をすることなど、なにもないはずなんだから。
「このトカゲ、まだ生きてるけど…。」
ローによって引きずられるトカゲは、まだピクピクと動いている。
「そりゃァな。殺してから血抜きをすると、固まっちまって肉質が落ちる。」
「へぇ、詳しいんだな。」
「そのくらいわからなくて医者が務まるか。」
「え……?」
一瞬、耳を疑った。
今、なんと言った?