第35章 歌とぬくもり
翌朝、病室でベポの診察をするローのまわりを、クルーたちはそわそわと取り囲んだ。
「船長、ベポの具合はどうッスか?」
「…熱は下がった。口腔の腫れも引き始めてる。」
「マジかッ、良かったなぁ…ベポ!」
まだ意識は戻らないけど、ずっと彼を苦しめていた高熱がようやく下がったことに、病室は歓喜に沸く。
「……。」
そんな中、ローは昨夜のことを思い出していた。
昨日、夜の薬草畑から帰宅したモモは、調合したばかりの雪の結晶をベポに飲ませた。
それまで、薬の効果に半信半疑だったローは、その後すぐに訪れた容態の変化に、息を飲むことしかできなかった。
ベポの高熱は、あっという間に下がったのだ。
「良かった、これでもう大丈夫ね。」
そう言って彼女は部屋へと戻っていった。
しかし、モモがいなくなってからも、ローはベポの傍で看病を続けた。
看病といっても、熱も下がり苦しみが引いたベポの顔を、ただ眺めるだけだけど。
当初の目的は、病気に効く薬草を入手しにきただけ。
それが、どうしてこんなことになったのだろう。
自分たちは、モモとコハクの親子に、多大な恩を受けてしまった。
さて、この恩を…どうやって返せばいいのだろう。
「おはよう、みんな早いのね。」
まだ日が昇ったばかりだというのに、早々に起きて病室に集うところを見ると、彼らの仲間への愛情が窺える。
「クマ、目ぇ覚ましたか?」
モモと一緒に2階の部屋から下りてきたコハクが、ベポのもとにパタパタと駆け寄る。
「熱は下がったが、まだ目を覚まさないな。」
「なんだ…。」
ジャンバールの言葉にガックリと肩を落とす。
どうやら、コハクはベポが目を覚ますのを心待ちにしているらしい。
それはもちろん、モモも同じ…。
「…コハク。」
「なに、母さ…--!」
自分を見つめるモモの瞳に、コハクは素早くモモの言いたいことを察知した。