第35章 歌とぬくもり
そんなこと、気にしたことなかった。
「…呼んでなかったかしら?」
「呼んでねェ。」
おかしいな、と思って記憶を遡ると、確かにそうだったかもしれない。
変な態度をとっちゃいけないとローを意識するあまり、知らず知らずのうちに名前を呼ぶのを避けていたのかも。
そうよね。
自己紹介までしてるのに、名前を呼ばれないのは嫌だよね。
まあ、ローだってモモのことをしょっちゅう“お前”と呼ぶけれど。
それはこの際置いといて…。
「これから気をつけるわ。…改めて、ありがとう…ロー。」
ドクン…ッ。
「……!」
まただ。
彼女に名前を呼ばれると、心臓がうるさくなる。
無意識に胸を撫でつける。
「……? どうしたの?」
「……イヤ。」
どうかしたかは、こっちが聞きたいくらいだ。
「……?」
訝しげな表情でローを見ていたモモだったが、ふとその金緑色の瞳が夜空を捉える。
「…あッ、見て! …流れ星!」
「……あ?」
流れ星? それがなんだ。
「ほら、また…! ねえ、見てよ…ロー!」
ドクン…ッ。
無邪気にはしゃぐモモに名を呼ばれ、心臓がまた大きく跳ねた。
「見た…?」
「……ああ。」
本当は全然見てなかったけど、適当に話を合わせた。
「ああ…ッ、またお願い事するのを忘れちゃった! でもいいわ、次の時にするから。……ね!」
そう言ってモモは、星のように輝く笑顔をみせる。
次…。
果たしてその時、彼女の傍に自分はいるのだろうか。
願い事が言えたと喜び、笑顔を咲かす彼女を見れるのだろうか。
……欲しい。
珍しい薬草でも、豊富な知識でもなく。
星に喜ぶ彼女が欲しい。
流れる星に願いを込める彼女の、隣にいたいと強く思った。