第35章 歌とぬくもり
モモの知識は、世界樹から授かったもの。
化け物と恐れられた、世界樹 ユグドラシル。
思えば、あれはわたしとローが初めて一緒に冒険した地だったよね。
巨大な昆虫に、初めて見る薬草。
幻覚を見せる霧と、初めてできた…同い年の
、男友達。
彼はもう、モモの心の中にしかいない。
そしてあなたの心の中には、あの地の思い出はないんだね。
わたしが、奪ったから。
「わたしの知識は、植物たちが教えてくれるのよ。」
「…俺は冗談じゃなく、本気で聞いているんだが。」
そんなおとぎ話のようなことを聞きたいんじゃない。
「あら、本当のことよ。わたしは薬剤師だけど、植物学者でもあるんだから。」
モモが育てあげた薬草は、さしずめモモの子供たち。
「愛情をもって育てれば、この子たちもそれに応えてくれるのよ。」
そう言って、傍らに生える子を柔らかく撫でると、薬草はくすぐったそうに葉を揺らした。
(コイツ…、植物に好かれる性質なのか。)
朝も思ったことだけど、彼女が作る薬草はどれも素晴らしい。
どんな植物学者でも、研究者でも、彼女の薬草の前では赤子も同然だ。
きっと、ローが育てても同じ。
モモが植物を愛するように、植物もモモを愛しているから、だからこんな素晴らしい薬草に育つんだ。
それは才能というより、奇跡に近い。
もし、モモが仲間になったら…。
「お前、この島を出るつもりはないのか?」
考えるより先に、そんな言葉が口にでた。