第35章 歌とぬくもり
「見たことのない薬草だ…。どんな効果がある。」
ローの研究者心に火がつき、じっくりと雪の結晶を眺める。
「解熱効果よ。わたしの知る中で、この薬草が1番熱の病には効くの。」
「…この花がか?」
今にも溶け出しそうな結晶に、ローの指が触れる。
「あ…!」
モモが声を上げたときには もう遅い。
雪の結晶はパラパラと儚く砕け散ってしまう。
「……砕けたぞ。」
「そうね。…雪の結晶は、とっても繊細だから。」
ちょっとした熱や衝撃で、すぐに砕けてしまう。
それこそ、本物の雪の結晶みたいに。
「そういうことは、もっと早く言え。」
おかげで貴重な薬草がひとつ減った。
「言うヒマ、なかったじゃない。」
そんな責めるような目をされても困る。
モモは呆れてため息を吐く。
「で、そんな脆い花をどうやって薬に変えんだ。」
「こうするのよ。」
モモはポケットから、口の大きな瓶を取り出した。
中には透明な液体…数種類の薬草をとある比率で配合した煎じ薬が入っている。
キュポンと栓を外し、瓶の中にそっと雪の結晶を落とす。
するとどうだろう。
あの儚かった結晶は、瓶の中で煎じ薬と混ざり合い、飴のように固まる。
「……!」
「固まったでしょ? これを飴みたいに舐めて服用するのよ。」
軽く瓶を降ると、中の結晶がスノーボールのようにユラユラと漂う。
こんな薬も、調合方法も、ローは知らない。
どんな医学書にも、こんなことは書いていない。
「お前、この調合方法をどこで知った。」
リリアスの薬も、結晶の薬も、モモの知識はローが知らないことばかりだ。
なぜ、彼女は誰も知らないようなことを知っている?
なぜ、彼女はそんな知識を持っていながらこんな無人島にいる?
知りたい、知りたい…。
モモのことを、全て知りたい。