第35章 歌とぬくもり
(なんでこんなに怒ってるんだろう…。)
自分の手を引くローの背中を、モモはジッと見つめた。
前を歩く彼は、終始無言だ。
明らかに不機嫌そうだけど、まさか眠りを妨げてしまったことで、それほど怒ったりしないだろう。
だって、それならわざわざ、モモを追いかけて来てくれるはずないから。
(ああ…、そうか…。)
心配、掛けてしまったのね。
思い出したよ。
あなたがとても、心配性だってこと。
優しい彼は、冷たいフリや興味のないフリをしているけど、本当はとても優しい人。
だって、ほら。
わたしの歩幅に合わせてくれてる。
足の長い彼が、普通に歩いてモモの手を引けば、歩幅の差で自分は小走りになるしかない。
それを考えて、わざとゆっくり歩いてくれているんだ。
「…心配、掛けてしまってごめんなさい。」
彼の背中に声をかけた。
「……そんなもん、してねェよ。勘違いすんな。」
ああ、そうそう。
あなたは照れ屋でもあったよね。
「追いかけて来てくれて、ありがとう。」
「…お前になにかあったら、ウチの航海士を誰が面倒みる。別にお前のためじゃねェ。」
そうやってわざと冷たく言うところも変わらないね。
ねえ、まだ怒ってる?
それとも、照れてる?
今、どんな顔してる?
あなたの顔が見たいな。
「…着いた、あそこが夜の薬草畑よ。」
しばらく歩いた後、見えてきたのは小さな薬草畑。
真夜中に収穫時を迎える薬草たちは、なるほど、確かにローが見たことのないような珍しいものばかりだ。
「ほら、見て…。これが雪の結晶よ。」
畑にしゃがみ込んだモモが見せてくれたのは、本物の雪の結晶と見まがうほど、繊細な作りをした薬草の花だった。