第35章 歌とぬくもり
いやに騒ぐ胸を不快に思いながら、ローは走った。
辺りには、獣の気配が無数に満ちている。
そして暗闇の森の中、ただ一点だけ明かりがポッと灯っているのを見つけた。
(……モモ!)
やっと見つけ出した彼女は無事のようだ。
でもそれは、今はの話。
モモの周りには、おびただしい数の狼たちが群をなして取り囲んでいる。
オイ…。その牙を、爪を、少しでも触れさせてみろ。
……殺してやるぞ。
ザワリ…。
殺気と覇気が混ざり合い、狼たちの毛を逆立たせる。
キューン…、キャインキャイン!
今の今まで夜の森を制していた獣の覇者たちは、たったひとりの男の威圧によって、簡単に逃げ出した。
その様子を間近で見ていたモモは、不思議な面もちで小首を傾げている。
間一髪、彼女を守ることができて ひと息吐いたが、モモの迂闊すぎる行動に、苛立ちを隠すことができない。
怒りのまま、大股にモモへと近づいた。
足音に気がついたのか、彼女はこちらを振り返り、いるはずのないローの姿に目を大きく見開いた。
「あ、あなた…どうして?」
どうしてだって?
そんなことは俺が聞きてェよ。
オイ、どうしてくれる。
お前のせいで苛立ちが収まんねェぞ。
責任取れよ、バカ女。