第35章 歌とぬくもり
コイツ、バカなんじゃねェのか…ッ?
ローはモモの手を引きながら、未だ収まらない苛つきを持て余していた。
実はというと、ローはモモが部屋から出てきたときから目覚めていた。
ローの眠りは普段からとても浅い。
人の気配や物音で簡単に目が覚めてしまう。
別に寝たふりをするつもりはなかったが、病室にやってきたモモが、まさか自分にリネンを掛けてくれるなんて思わず、目を開けることができなくなってしまったのだ。
ベポの様子を見にきたらしい彼女は、しばらくしたら部屋に戻ると思いきや、なんとランプを手に、ひとりで外へ出て行ってしまった。
今朝、出会ったときの全力疾走や、そのほかの身のこなしを見る限り、モモに戦闘力がないのは明白だ。
なのに こんな夜中に出歩くなんて、どうかしてる。
ローはいてもたってもいられず、モモの後を追いかけた。
自分は夜目が利く方だと思う。
暗い夜道、必死に彼女の姿を探した。
するとまさに今、森の中に入るモモを見つける。
(オイ…、冗談だろ…?)
彼女は6年この島に住んでいると言った。
それなら、夜の森がどれだけ危険かもわかっているはずだ。
それとも、獲物を探す猛獣たちの息遣いに気がつかないのだろうか。
バカな女なんか、放っておけばいい。
普段の自分なら、そう思えるはずなのに、なぜだかそうすることが出来ず、足早に彼女を追った。
オォーン…。
狼の遠吠えが聞こえる。
ドクン、ドクン…。
心臓が嫌な音を立てた。
まさか、彼女に危険が迫ってはいないだろうか。
ひとりで、怖い思いをしていないだろうか。
彼女の傍に、自分がいないことがこんなに苛立たしいなんて…、どうかしてる。