第35章 歌とぬくもり
ザ…ッ、ザ…ッ。
モモの背後から歩いて来たのは、家で寝ているはずのローだった。
「ど、どうして…?」
「…どっかの誰かが、余計なモン掛けるから、目が覚めちまった。」
「え…ッ。」
良かれと思って掛けたリネン。
だけどアレが原因で起こしてしまっていたのか。
ずいぶん不機嫌そうなのは、睡眠を邪魔されたせいだろう。
「ご、ごめんなさい…。」
「…こんな時間にどこへ行く。」
「え…? ちょっと、薬草を採りに行こうかなって。」
それを聞いて、ローはますます眉間に皺を刻む。
「明日にしろ。」
「明日じゃダメなのよ。これから採りに行くのは、夜中にしか咲かない花なの。」
それに、今日は満月だ。
雪の結晶の薬効が1番高い日。
まさに絶好のタイミングと言える。
「……チッ。」
ローは大きく舌打ちをすると、モモの手からランプを奪い取った。
「あ…、ちょっと…。」
「……どっちだ?」
「え…?」
「その薬草がある場所は、どっちの道だ。」
それって…、もしかして、ついて来てくれるってこと?
「オイ、聞いてんのか。」
「あ、聞いてます。この道沿いをしばらく行ったところよ。」
ハッとして答えると、ローはクルリと背を向け、モモが指差した方向へ歩き始める。
「あ…、ちょっと待っ……きゃッ」
ドテッ。
転んだ…。
「オイ、どうしたらそんな、なにもないところで転べんだ。奇跡か?」
呆れたように見下ろすローに悔しさが募る。
「あ、あなたが…ランプを取るからでしょう…!」
嘘。たぶんランプを持ってても転んだと思う。
むしろ、持っていたら割っていたので、持ってなくて良かった。
「ハァ…、しょうがねェな。…ホラ。」
倒れたまま打ちひしがれるモモの前に、ローの手が差し伸べられる。
「あ、ありがとう。」
手を借りて立ち上がると、ローはそのまま歩き出した。
モモの手を引いたまま…。
(え……。)
手を、繋いでくれるの?
「い、いいの…?」
「また転ばれても迷惑だ。」
またそんな冷たい言い方して。
でもモモは知っている。
ローがとても優しい人だって。
ああ、今が夜で良かった…。
赤くなってしまった顔を、あなたから隠してくれるから。