第35章 歌とぬくもり
ピカピカと光る無数の目玉を前に、モモは大きく深呼吸した。
(まあまあ、落ち着きましょう。)
一見すれば、オバケにも思えて叫び出したくなるけれど、ちゃんと見れば、ただの狼なんだから。
手に持つランプで照らして見れば、ほら…!
「良かった~、狼だわ…。」
これが妖怪とかだったら、心臓が止まるとこだった。
イヤ、気にするところ違げーだろ!
と突っ込んでくれる息子はいない。
狼たちは、互いに目配せ合いながら、獲物であるモモに、じりじりとにじり寄る。
(襲う気満々ね。…でも、わたしだって、オバケじゃなければ怖くないのよ?)
この6年で、モモも少しは強くなったと思う。
でもそれは腕っぷしじゃなくて、度胸の話。
(狼の群くらい、歌で追い払えるわ。)
ずっと歌と植物の力で生き抜いてきた。
だから使いどころにも慣れてきたのだ。
助けてもらわなきゃ、なんにも出来ないあの頃の自分はもういない。
……たぶん。
歌を唄おうと、モモは大きく息を吸い込んだ。
その時--。
ザワリ…。
キューン…キャインキャイン…!
急に怯えたような声を出した狼たちは、尻尾を巻ながら、大慌てで逃げ出していく。
「……あら?」
まだ一声も唄っていないモモは、吸い込んだ息をどうしたらいいかわからず、そのままフーッと吐き出した。
「…どうしたのかしら。」
まさかモモの歌に感づいて逃げ出した…とか?
いやいや、あり得ない。
はて…? と首を傾げていると、後ろからザッザッと足音が近づいてくる。
「……?」
今度はなんだと振り向くと、そこにいた人物に目を剥いた。
「あ、あなた…。」