第35章 歌とぬくもり
夜の無人島には、当然街灯なんてない。
月と星の明かりだけが頼りのこの島では、ランプなくては出歩けない。
夜行性の猛獣だっているし、出歩かないにこしたことはないのだけど、モモにはどうしても行かなくてはならない場所がある。
“夜の薬草畑”だ。
夜の薬草畑は、菜園よりも奥にある。
森を抜け、1番月の光が当たる場所。
そこに植えられた薬草たちは、真夜中に収穫しなければ効果が出ない子たちばかり。
育て方が難しく、昼の薬草たちと同じ畑で育てられない。
その代わり、薬効はとても高いのだ。
(確か…、今夜にでも“雪の結晶”が咲く頃だわ。)
まるで本物の雪の結晶のような繊細な花。
月光のもとでしか花開かず、雪のように脆いため、その場で薬に調合しなければならない。
しかし、それから作る薬は、どんな解熱薬よりも効果が高い。
モモはそれを、ベポに飲ませたかった。
そのために、夜の森をひとりで歩く。
夜の森は危ない。
いつもはヒスイと一緒に来ているが、かつての仲間と再会したヒスイは、喜びのあまり夕食時にテンションが上がってお酒をガブ飲みしてしまった。
おかげで朝まで目を覚まさないだろう。
モモだって、夜道がまったく平気なわけではないけれど、オバケさえ出なければ大丈夫。
彼女がもっとも嫌いなのは、オバケだから。
(ふふ。無人島なら、幽霊も出ようがないわね。)
だって幽霊になる人が住んでないんだもん。
だから、モモの足取りは割と軽い。
ただ、本当に危ないのは、決して幽霊なんかではなく、夜行性の獣だ。
彼らは常に、獲物を探してる。
オォーン…!
遠吠えが聞こえる。
きっと、狼だ。
割と…近い。
モモはランプを握り直し、辺りを警戒しながら先を進む。
ザザザザ…ッ。
しかし、警戒虚しく、地面を蹴るような、草木を分けるような、そんな音が聞こえてくる。
「あら…。」
気がつけば暗い夜の森には、モモを取り囲むように、光る目玉がいくつも並んでいる。
囲まれちゃったみたい…。