第35章 歌とぬくもり
その夜、モモはベッドからムクリと起き上がった。
隣ではコハクがスヤスヤと寝息を立てている。
普段は別々に自室を持っているが、ローたちを警戒してか、一緒に寝ると言い出した。
そんな心配はないけど、ひさしぶりに可愛い息子と同じベッドに入れて、モモは嬉しかった。
コハクを起こさないように そっとベッドから抜け出し、部屋を出る。
1階では客であるハートの海賊団のクルーたちが、大イビキを掻いて眠っていた。
(空いてる部屋を使っていいって言ったのに…。)
リビングで雑魚寝する彼らに若干呆れ、苦笑する。
みんなベポが心配なのだろう。
モモは足音を殺して病室へと移動する。
(あ……。)
病室では看病用の椅子に座り、大太刀を抱きながら眠るローの姿。
そんな格好で寝たら、疲れも取れないだろうに。
モモは戸棚から、まだお日様の匂いが残るリネンを取り出し、ふわりとローに掛けた。
(昔より、隈が濃くなったね。)
研究熱心な彼のこと。
また夜更かしをし続けて、不摂生な生活でも送っているのだろう。
(ダメな人ね…。)
その目元に触れたくなったけど、ギュッと我慢して拳を握る。
今のわたしに、そんな資格はないわ。
ローから目を離し、今度は未だ眠り続けるベポの様子を見る。
朝に比べたらずいぶん容態が回復したけど、それでも熱が下がらず、苦しそう。
(せめて、熱を下げた方が良さそうね。)
ここで癒しの歌を唄っても、ベポは目を覚ますだろう。
でも、モモの歌は自己治癒力と回復力を各段に上げるもの。
熱が下がっているときと、そうでないときでは効果が大きく変わる。
少しでも早く彼らを海に帰してやるには、後者をとるほかない。
(大丈夫よ、ベポ。わたしが絶対治してあげるから。)
ふわふわの頭をひと撫でし、モモはランプを手に立ち上がる。
そして再び足音を殺し、誰も起こさないよう、そっと家を出て行った。