第35章 歌とぬくもり
シャチとペンギンの涙が止まった頃、ヒスイが外の納屋から樽を持って戻ってきた。
「きゅきゅ。」
「あ、ヒスイ、ありがとう。…ペンギン、お酒が来たからすぐ出すね。」
「よっしゃ!」
この家ではお酒を嗜む人がいない。
モモは下戸だし、コハクはさすがにそんな歳じゃない。
だけど、酒好きなお客さんのために、モモは常にお酒を用意している。
酒好きのメルディア。
そして、2年前まではエースも…。
「どうぞ。」
「お、オツな杯だなー。」
なめらかな白磁の杯に、それぞれ酒を注いだ。
グビ…。
「うっま! なにコレ、なんて酒!?」
「お米から作ったお酒よ。ええっと、確か…ニホンシュって言ったかしら。」
ワノ国で主流となっている酒だ。
メルディアがおもしろ半分で持ってきた本を元に、モモなりに作ってみた。
「…悪くねェな。」
口当たりが良く、ローの舌も満足させることが出来たみたい。
「コレ欲しい! どこで売ってんスか!?」
酒コレクターのペンギンとしては、是非とも手に入れたい。
「これはわたしが作ったの。まだ1樽あるから、良かったら持って行って?」
「モモが…作った…?」
「そうよ。おかわり、いる?」
ガシ…ッ。
空の杯に注ごうとした手を、ペンギンに掴まれる。
「……モモ。」
「……? なあに。」
「結婚して欲しいッス!!」
ぶふーッ!
ロー以外の全ての人が、吹き出した。
そしてローも、カランと箸を落とすという失態を起こす。
「ゴホゴホ…ッ。ななな、なに言ってんだ、ペンギン…!」
危うく酒が鼻から出そうになった。
激しく咳き込みながら、シャチが喚く。
「あら、わたし子持ちよ?」
「母さん! そういう問題じゃねーから!」
「全然大丈夫ッス。コハク、パパって呼んでもいいぞ!」
「誰が呼ぶか、バカヤロー!」
ガルル…とコハクは今にも噛みつきそうだ。
その時、冷ややかな声がペンギンに投げかけられる。
「おもしれェこと言うじゃねェか。そりゃァ、船を降りたいってことか?」
「……!」
全員がハッとして見ると、船長様がひじをついてこちらを見ている。
ヤバイ、目が据わってる…。