第35章 歌とぬくもり
「はい、お待たせ。」
「おお~、美味そう!!」
菜園の野菜をふんだんに使ったサラダ。
今朝、コハクが仕留めた猪のスペアリブのハニーソースがけ。
ハマグリとエビの酒蒸し。
資源豊富なこの島では、自給自足で十分暮らしていける。
ただ、米だけはメルディアの協力なしには得られないけど。
どっかの誰かさんに似て、コハクはパン嫌いの米好きだ。
「すげぇご馳走! 感激ッス!」
「どうぞ、召し上がれ。」
普段は広いテーブルに、自分も含めて6人も座ると途端に狭くなる。
だけど今は、この狭さが嬉しかった。
「「いただきます!」」
パクリ…。
「ふむ、美味いな…。あんた、料理人にもなれるんじゃないか?」
「ふふ、ジャンバールは大げさね。ありがとう。」
このくらいで料理人だなんて言われたら、世の中のコックさんに怒られそうだ。
「いや、ジャンバールはよくわかってるよ。それに比べて、他のヤツは美味いのひと事も言えないのか……って、なんでまた泣いてんの?」
感想くらい言えよ、と怒ろうとしてあとの3人を見ると、シャチとペンギンは泣き、ローは箸を持ったまま固まっている。
「う…美味いよ…!」
「美味いッス…ッ、めちゃぐちゃ…!」
「……。」
ものすごく気味が悪い。
「ど、どうしたんだよ。」
「な…なんだろう…? わがんねぇ…。」
「なんか…、懐がじい味で…!」
瞬間、モモは箸を落としそうになった。
(覚えてて…くれたの…?)
記憶がなくても、舌はモモの料理を覚えててくれたのだろうか。
嬉しい…。
けど、彼らの記憶が目を覚ますことはないだろう。
「…きっと、故郷の味に似てるんじゃないかしら?」
「え…?」
「ほら、母親の手料理って、しばらく食べてないでしょう? だからきっと…、懐かしいのよ。」
「そ…、そっか…。ぐす…、なんか恥ずかしいな。」
「美味いッス、モモ。…おかわり!」
「あ、俺も!」
本当にそうだろうか。
ローはもうひと口、料理を口に運ぶ。
懐かしい…。
胸を占めるこの想いは、本当に故郷の恋しさなんだろうか…。