第35章 歌とぬくもり
その話を聞いたとき、コハクは決して、自分は父の夢の邪魔でしかなかったんだな…とか、望まれなかった子供なんだ…とは思わなかった。
なぜなら、そんなことをチラリとも思わせないほど、モモはコハクを愛してくれたから。
父の夢を応援するため、ひとり離れたモモ傍に、自分がいて本当に良かったと思う。
こうしてモモの涙を拭ってやれる。
大好きな母が愛した人だ。
きっと、父も素晴らしい人なのだろう。
だから、コハクは会ったことがなくたって、父を尊敬している。
当然、モモのことだって。
父がモモの傍にいないのなら、代わりに自分が母を守ろう。
モモはこの島から一生出ないと言うけれど。
もし…、もしいつか、島を出て父に会いに行きたいと言ったなら、その時は自分が母の手を引こう。
なあ、母さん。
母さんのことは、オレがぜったい守るからさ…。
だから、いつか2人で会いに行こうよ。
父さんのところに。
だから、そんなに悲しい顔しないで。
強くなるから。
セイレーンである母さんを、誰からも守れるくらい、もっと強く。
だからそれまで、オレ。
もう父さんのことは聞かないよ…。
あの日、小さな胸に、固く誓った決意。