第5章 あなたになら
(すごいなぁ、船の上にいれば海鮮物には困らないのね。)
それを美味しく料理するのはモモの仕事だ。
釣った魚をどう料理するかをアレコレ想像していると、竿がグンと重くなった。
(…? 掛かったのかな?)
重みがあるけど、先ほどのように引かれる感じはない。
ゴミでも引っかかったのかもしれない。
一度上げてみることにする。
(あ、やっぱりゴミだ。)
海草と一緒になにやら赤くてブヨブヨしたものがくっついている。
(なんだろう?)
船に上げて取り外そうと近づく。
ギイッと扉が開き、船内からローが出てきた。
「ったく、うるせェな…なんの騒ぎだ。」
キッチンではシャチがギャーギャー騒いでるし、なにをやっているんだか。
デッキに目を向けると、珍しくも釣り竿片手のモモの姿。
彼女は針に掛かった『何か』を取ろうとしている。
赤くブヨブヨした透明なもの。
その正体に気がついて、目を剥いた。
「バカ野郎!!…なにしてッ」
慌てて駆け寄り、今にも触れそうな手を叩いた。
「!」
「……つッ」
ローの手に鋭い痛みが走る。
構わずローはモモの白い手を取った。
「触れてないな!?」
驚きに目を見開きつつも、素直に頷く。
「これは猛毒クラゲだ。刺されたら命はねェぞ。」
(猛毒クラゲ!?)
ただのゴミかと思った。
よく見たら赤くてブヨブヨの物体は僅かに動いている。
危うく手で掴むところだった。
ローはクラゲを踏みつけて針から外すと、海へと蹴っ飛ばした。
「いいか、得体の知れねェもんに迂闊に触んじゃねェ。」
(…ごめんなさい。)
「ハァ…心配させやがって。」
ローの手が、フワリと頭を撫でる。
その手は少し、熱いようだ。
(ロー…?)
突然、ガクリと膝をついた。
(ロー!)
とっさに身体を支える。
彼は頬を上気させ、息も荒い。
(まさか…!)
慌てて彼の手を取ると、手の甲に赤いミミズ腫れがあった。
(ああ、なんてこと!)
ローはモモの代わりにクラゲに刺されたのだ。
(誰か、誰か来て!)
発せられない声に、気がつく者などいない。