第5章 あなたになら
ビビッ
「--!」
「お、来たな? ほら、巻け巻け!」
慌ててリールを巻いた。
魚は釣られまいと左右に走って抵抗する。
「竿立てて! 焦んなよー、ゆっくり巻けばいい。」
(う、うん。)
シャチの指示に従って、じわじわと魚を引き寄せていく。
やがて魚は水面でバシャバシャと水しぶきを上げるまでに接近した。
「よし、掬ってやるからそのままな!」
シャチは大きな網で魚を掬い、船へと上げた。
「お、カツオじゃん! 道理で引くわけだ。モモ、やったな!」
(これ、わたしが釣ったの…?)
デッキでビタビタと跳ねる50㎝ほどの魚を見て感動する。
(釣りって楽しい! これ、お刺身にしたら、みんな喜んでくれるかな?)
ふわりと脳裏に『旨い』と言うローの姿が浮かんだ。
(…違う違う、みんなよ。ベポはお刺身が好きっ言ってたし。)
なぜか浮かんだ彼の顔を、首を振って否定した。
「負けてらんねーなぁ。よし、俺もやってやるぞ!」
カツオを生け簀に入れて、シャチは再び竿を振った。
ビビッ
「おッ! 来た来た~!」
シャチの竿が大きくしなる。
「お、重…ッ。これは…デカいぞ~!」
キリキリとリールが悲鳴を上げる。
(が、頑張って!!)
なにが掛かったのか見てみたい。
今度はモモが網を片手に海面を覗く。
徐々に上がってきた獲物の影がユラリと見え始めた。
(えっ…と、網…入るのかな?)
とてもじゃないが、収まり切らなそうだ。
「モモ、俺をナメんなよ? このくらい上げてやるぜ……どりゃ!」
力いっぱい引いた。
バシャン!と音を立てて海から獲物が飛び出てきた。
(う、わぁ…!)
ベチャっと船に上がったソレは、モモの身体より大きい。
「よっしゃ! イカだ!」
ウネウネと動くイカは体の色を黒くして、怒りを露わにする。
(シャチ…、コレ生け簀に入らないよ?)
というか、ちょっと触るのが怖い。
巻き付かれたらどうしよう。
「任せとけって! 俺がキッチンに運んで締めといてやるから。」
モモから頼られるような視線を送られ、気を良くしたシャチはイカと格闘しながらソレをキッチンに運んで行った。