第34章 起きて見る夢
「じゃあ、まず…、患者さんをわたしの家まで運んでくれないかしら。」
「お前の家に…?」
怪訝そうに聞き返すローに、モモは大きく頷く。
「病状が変わるごとに薬も調合し直さなくちゃいけないのに、ここにいたらすぐに薬を持ってこれないでしょう。」
「お前がここにいりゃいいじゃねェか。」
「え…ッ。」
まさかそんな返しをされると思わず、言葉に詰まった。
「バーカ! 母さんをこんな男だらけの船に置いておけるわけねーだろ。」
「コハク、口が悪いわよ。」
めッと窘めるけど、聞いた様子はない。
遺伝だから、しょうがないのかしら…。
「えっと、そういうことじゃなくて、欲しい薬草をここからわざわざ畑に取りに行くわけにいかないから、できればわたしの家に来て欲しいの。」
容態が悪化したとき、船から薬草を取りに戻ったんじゃ、手遅れになる場合もある。
「仲間が心配なら、あなた達がウチに来たらいいわ。部屋も余っているし。」
「母さん…!?」
モモの提案に驚いて目を剥いた。
病人はともかく、こんな海賊たちを家に招くなんて、なにを考えているのだ。
「大丈夫よ、コハク。」
彼らのことなら、自分が誰より知っているんだから。
「ど、どうします? 船長。」
「……。」
大切な仲間の命に関わる重要なこと。
そう安易に決められない。
第一、医者でもないこんな女を信じていいのだろうか。
薬を渡せ。
あとは自分で治療する。
普段のローならば、迷わずそう答えた。
だけど、頭の中で声がするんだ。
「モモに任せておけば、心配ねェ」って。
「…わかった、お前に任せる。」
「ええッ、まじッスか!」
ローの決断に、クルーたちはものすごく驚いた。
仲間以外の人間を信用しないローがまさか…! と。
(やっぱり、船長も美人には弱ぇんだ。)
(そりゃ、仕方ないッス。)
(そういうものなのか…?)
コソコソと失礼なことを囁く仲間たちに、ビキリと青筋が立った。
「うるせェぞ、お前ら。バラされたくなきゃ、さっさとベポを運べ!」
「「アイアイサー!!」」