第34章 起きて見る夢
「うわ、クマだ! オレ、初めて見たよ。」
シルフガーデンにはクマは生息していない。
初めて見るクマにコハクは興味津々で近寄る。
しかし、ベポはゼェゼェと荒い息遣いで、とても苦しそうだ。
「…母さん。」
優しいコハクの乞うような視線を受け止め、モモはベポへと歩み寄った。
「熱が高いわね…、呼吸も荒いし。口内はどうかしら…。」
そう言うと、モモはいきなりベポの口を無理やり開いた。
「オイ…ッ。」
突拍子もない行動に驚き、ローは彼女の肩を掴んだ。
「なぁに?」
「お前、なにをしてる。」
「病状の進行段階の確認よ。」
怒気を滲ませたローなど気にする様子もなく、モモは確認作業を進める。
「歯茎も舌も腫れてるわね、かなり危ないわ。でも、最終段階には進んでないみたい。」
「最終段階…? それはどんな症状だ。」
少し詳しすぎるモモに眉をひそめつつも尋ねた。
「最終段階は…、ええっと、ちょっと待って…。」
モモはゆっくりとこめかみを揉む。
さあ、教えて。
世界樹の知恵…。
世界樹 ユグドラシルから授かった知恵は、今もこうしてモモに誰も知らない知識を与えてくれる。
「…最終段階は、口内に白い斑点ができて、腫れが喉を圧迫。肺の機能は低下するし、気管も潰れて呼吸困難に陥るわ。」
幸いベポに斑点はできていない。
100%完治するとは言い難いけど、手遅れじゃない。
(それに、いざとなったら…。)
自分には、彼を助ける力がある。
「お前、なぜそんなことを知っている。」
どんな文献にも、そんなことは記載されていなかったのに。
(どこかで聞いたセリフね…。)
あれはそう、モモがローたちに拾われて、初めて彼の部屋を訪れたときのこと。
薬草の育て方を教えてあげたモモに、彼はまったく同じ質問をしたのだ。
一瞬、あの時に戻った気がして、知らないうちに口元が笑みを作る。
「わたしは薬剤師よ。色んな知識があって当然でしょう。」
でも、わたしはあの時とは違うのよ。
もっとずっと、成長したんだから。
「手始めに、患者さんはわたしに任せて。」
見てて、ロー。
あなたの役に立ってみせるから。