第34章 起きて見る夢
ハシゴをつたって船に上がると、船内からひとりの大柄な男が出迎えにやってきた。
「ジャンバール、変わりはあったか?」
「いいや。ずっと眠ったままだ。」
ジャンバールと呼ばれた男は力なく首を振る。
あれから6年。
モモが知らない仲間が増えていたって、なにも不思議じゃない。
「……そっちは誰だ?」
無人島であるはずの この島から、見慣れぬ女と子供を連れ帰ったのだから、ジャンバールの疑問はもっともだと思う。
「初めまして。わたしはこの島で薬剤師をしているモモと言います。こっちは息子のコハク。」
「よろしくな!」
それぞれ挨拶をしたモモとコハクに、ジャンバールは「薬剤師…? 息子…!?」と目を白黒させた。
こういう反応には慣れている。
モモは今、23歳。
6歳の子供を持つには少し若すぎるだろう。
でも今は、それを説明している時間はない。
「それで…患者さんは?」
「こっちだ、ついてこい。」
スタスタと船内に入っていくローを慌てて追った。
一度潜水してしまえば浮上するまで外に出られないのが潜水艦だ。
そのため、船内はとても広く作られている。
当然だが、かつての船の面影はない。
1階のキッチン兼リビングを通り抜け、ひとつ下の階にはローの手術室と医務室がある。
さすがに医者が船長の船だけあって、搭載されている設備は全て最新のものだ。
「ここだ。」
ローはガチャリとドアを開け、医務室にモモとコハクを通した。
そしてその後をクルー3人もついてくる。
医務室のベッドには、ひとりの患者が横たわっていた。
(ああ…。)
白くフカフカな毛皮。
愛くるしい顔立ち。
そして大きな身体。
わたしの、親友…。
「ベポ……。」
思わず口に出てしまった親友の名は、掠れた呟きだったため、ローの耳には届かなかった。
しかし、隣にいたジャンバールの耳には入り、首を傾げさせた。
「……?」
まだ誰も、ベポの名前を言っていないのに。
(いや、島の中で話をしたのか…。)
その場にいたシャチとペンギンの名前ならともかく、船に残った仲間の名前を教えるなんて、ずいぶん話が弾んだようだな…とジャンバールは珍しく思った。