第34章 起きて見る夢
モモがローに出した条件は、やはりというか理解しがたいことだった。
第一、ローは患者がいるなどとひと言も言っていない。
だがもし、患者がいるとして、会いに行ってどうする。
リリアスの効能は、きっと自分よりも知っているだろうに。
「…なぜだ。」
条件の理由を問えば、モモは当たり前のように答えた。
「わたしは薬剤師よ。患者の容態も見ずに、薬を処方できない。」
もっともな意見。
だが、知っているのだろう?
リリアスは、クマの伝染病に効く特効薬だと。
なぜ、自分たちの船にクマがいると思うのだろうか。
普通は病気のクマを連れてきているなんて考えないはず。
だというのに、彼女は当然のように患者がいると信じて疑わない。
「わたしなら、あなた達の欲しい薬を完璧に作れるわ。」
自信に満ち溢れたモモは、先ほどまでの彼女とまるで別人のようだった。
「わかった、条件を飲む。」
モモをベポに会わせることなど、たいしたことではない。
それで薬をもらえるなら、これ以上安いものはないだろう。
ローはモモが船に来ることを2つ返事で承諾した。
「当然、オレも行くからな。」
ことの成り行きを見守っていたコハクがローに言い放つ。
さっきは勘違いだったけど、男だらけの船にモモをひとりで行かせるわけにいかない。
だってホラ、シャチとペンギンの目が、さっきからずっとハートマークになってる。
「お、女の子が俺たちの船に…!? あ、俺、ペンギンっス!」
「お、俺はシャチ! ああ、こんなことならもっと綺麗に掃除しておけば…!」
彼らの様子に、モモは2人と初めて出会った頃の懐かしさを感じた。
「よろしくね、2人とも。」
「「よろしくお願いします!!」」
同時にバッと突き出された2人の手を、モモは苦笑しながら握る。
そんな2人の様子を見て、ローは頭が痛い思いになった。
「ホラ…な。言っただろ、母さんはすごく美人だって。」
想像通りの展開に、コハクはローに「そら見たことか」とジトリとした視線を投げかけた。
「ハァ…、好きにしろ。」
ローはコハクの同行を許した。
確かに、モモはコハクが心配するのも納得できるほど、美人だ。