第34章 起きて見る夢
「待って! コハク、違うの…!」
今にも木刀を振り下ろそうとするコハクを、モモは慌てて後ろから抱き止めた。
「うわ…ッ、っと。危ないな、母さん…! なにが違うんだよ。」
「わたし、別に、ロ…この人にヒドいことされたわけじゃないわ。」
うっかりローの名前を呼んでしまいそうになり、言い直す。
自分とローは今“初対面”のはずなのだ。
「嘘言うなよ、泣いてんじゃん!」
ああ、忘れてた!
いろんな想いが詰まった涙を急いで拭う。
「こ、これは…、その…。」
「コイツにヒドいこと、されたんだろ!?」
「違うわ…、これは…。」
ローの姿に感動して…なんて言えない。
きっとローだって、モモがなぜ泣いているのかわからないだろう。
「これは…、転んじゃって…その…。」
「えッ? また…!?」
モモの告白に目を剥いて じっくりと母の姿を見直すと、なるほど、ヒドい有り様だ。
服はドロドロだし、こんなにいい天気なのに若干濡れてる。
どうやら、そうとう派手に転んだらしい。
「…転んだくらいで泣くなよ、大人なんだから。」
ポケットから取り出したハンカチでモモの顔を拭ってやる。
こうなるともう、どっちが母親なのかわからない。
「んん…、スミマセン…。」
返す言葉もなくて、ガックリとうなだれた。
「…悪かったな、オレの勘違いだった。」
「イヤ…。」
コハクはあっさりと非を認めたが、本当はモモが転んだのだって、ローのせいだ。
自分が彼女を追い詰めたから、こうなってしまった。
でも、彼女はそれを言わなかった。
「母さん、驚かせてゴメン。ローはオレがここまで連れてきたんだ。」
コハクに手を引かれ、ようやく立ち上がったモモは、驚いてローとコハクを交互に見る。
当然の反応だ。
コハクもチラリとこちらを見た。
挨拶しろよ…。そんな気持ちが伝わってくる。
本当にクソ生意気なガキめ…。
「トラファルガー・ローだ。」
名乗った瞬間、彼女の瞳は動揺したように少しだけ揺れたけど、すぐに覚悟を決めたようにこちらを見返した。
「…モモです。」