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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第34章 起きて見る夢




…嘘だ。

これは、きっと夢。

彼を恋い慕う気持ちが見せる、白昼夢。

それならば、逃げ出すことはない。

そんなことわかっているはずなのに、モモは足を止められなかった。

「ハァ…、ハァ…ッ」

しかし、モモの体力はコハクよりも無い。

すぐに息が上がってしまう。


そんなはずない。

彼が、いるはずがない。

そう何度も自分に言い聞かせる。
だけど、ならば振り返ってみろという自分の理性の指示には従えないでいた。

振り向いて、もし彼が本当にいたのなら、どうする?

あれほど夢にまで見た彼に、なにを語ればいいのだろう。

今、ローの中に自分は存在しないというのに。


振り向いて、もし彼がいなかったら、どうする?

自分はまた、あの喪失感を再び味あわなければならないのだろうか。



ザッ、ザッ、ザッ。

後ろから、誰かの足音が追いかけてくる。

来ないで
来ないで…!

夢で会えるだけでいい。
贅沢は言わない。

あなたに会ったら、なんて言えばいい?

はじめまして。

よろしくお願いします。

そんな言葉を笑って言えるかな。


ああ、でも…ねえ。
本当は…。

会いたい…。

狂おしいほどに。


背後に迫る足音が ひときわ近づいたその時。

ボコボコと地を這う樹の根に躓き、モモの身体が前のめりに傾く。

(あ……ッ)


ガシ…ッ。

転ぶ…と思った瞬間、後ろから伸びてきた腕がモモの腕を強く引き、彼女の身体を支えた。

その“誰か”からは、ふわりと消毒液の匂いがした。



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