第34章 起きて見る夢
ザ…ッ、ザ…ッ。
さらに数歩 彼女へと近づくと、ふわりとした風が吹き、ローの背を押す。
風はローを追い越し、彼女のところまで届く。
そこで初めて、彼女に変化が起きた。
一瞬なにかを考えるような表情をしたかと思えば、今度はしっかりとローの瞳を見た。
今度こそ“ロー”を見た。
「……ロー?」
ドクン…ッ。
その瞬間、鼓動が大きく跳ね、息が止まるかと思った。
今、なんと言った?
彼女は今、なんと呼んだ?
「…俺の名を、知ってんのか。」
なぜ…?
そんな想いが胸を突く。
ローは彼女を知らない。
だというのに、彼女はまるでローを知っているかのようだ。
なぜ知っているのか。
そう指摘すると、みるみるうちに彼女の表情が変わっていく。
例えるなら、幽霊を見たような…そんな表情。
「……? どうした。」
さっきまで普通だったくせに、怯えにも似た反応をする彼女に、内心動揺する。
彼女の唇が戦慄き、数歩下がった。
そんな彼女にどう対応したらいいかわからなくて、ローは戸惑う。
「……オイ。」
どうにか落ち着かせようと声を掛けるけど、それが余計に彼女を正気に戻す。
ザ…ッ、ザ…ッ。
これでは話にならない…と、最後の距離を詰めれば、彼女は震える手を口元に当て、声にならない悲鳴を上げた。
「―――ッ!!」
次の瞬間、彼女は踵を返し、服が汚れるのにも構わず全速力で駆け出した。
「オイ……ッ!」
彼女を呼び止めるけど、必死に走る背中は止まることはない。
「フザけんな、……逃がさねェ!」
絶対に逃がさない。
こんな気持ちを、以前にも感じなかっただろうか。
だけど今は、そんなことを考える余裕もなく、ただ彼女を追いかける。