第34章 起きて見る夢
こちらを振り向いた彼女は、ずいぶんと長い間、呆けたような顔をしていた。
突然の侵入者に驚いているのか、固まったまま身じろぎもしない。
大太刀を携えた自分はさぞかし恐ろしいだろう。
怪しい者じゃない。
お前の母親に、薬をわけてもらいに来た。
いくつもの説明が頭に浮かんだけど、結局、そのどれも口にすることができない。
理由は、目の前の彼女が無遠慮なほど、ローをじっくりと見つめるから。
不思議な色合いの瞳に見つめられ、ローは蛇に睨まれたカエルの如く動けないでいた。
ポロリ…。
その時、宝石のような金緑色の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
「……!」
それは、野に咲く花から零れ落ちる朝露のように綺麗な涙だった。
美しい…そう思う反面、無性に胸が騒ぐ。
その雫を拭ってやりたい。
どうしてそんなふうに思うのか、理解できなかった。
「なぜ、泣く……?」
涙の理由を知りたい。
彼女を知りたい。
しかし彼女は口を開かず、ゆっくりと瞬いた。
長い睫毛に涙が触れて、さらにポロポロと落ちる。
泣くな。
泣くな、泣くな。
「なぜ泣くんだと聞いている。」
口を開かない彼女に苛立ち、さらに問い詰めた。
すると彼女は不思議そうに首を傾げた。
「……?」
まるで、夢か幻でも見ているかのよう…。
オイ、お前はいったい、なにを見ている。
こちらを見つめる彼女は、自分でない“誰か”を見ている。
なァ、フザけんなよ。
こっちを…俺を見ろ…。
ザ…ッ、ザ…ッ。
薬草を掻き分け、彼女の下へと歩みを進める。
そんな自分を不思議そうに見つめる彼女。
自分の方へ向かせたくて、名前を呼ぼうとした。
けれど、彼女の名前を知らないことに気がつく。
お前は、誰だ……?