第34章 起きて見る夢
「……?」
なんだろう、なにか…変?
どことなく感じる違和感に、首を傾げた。
ザ…ッ。
幻であるはずの彼が、薬草たちを掻き分けて、1歩近づいた。
待って。
わたしはいつから、夢を見ているの?
ザ…ッ。
また1歩、歩みを進める。
待って。
あなたはいつから、ここにいるの?
ザ…ッ。
風がふわりと吹き、モモの頬を撫でつける。
それと同時に、懐かしい匂いを運んできた。
うっすらと消毒液の香りが残る、お日様の匂い。
忘れもしない。
愛しい彼の匂い…。
「……ロー?」
思わず名前を呼んでしまったのは、どうしてだろうか。
「…俺の名を、知ってんのか。」
当たり前じゃない。
忘れるわけない。
なにを言ってるの?
言いたいことはいくつもあったのに、どの言葉も口に出すことができなかった。
……待って。
ねえ、あなたは――。
ザ…ッ。
ドクン……ッ!
さらに距離を縮めた彼に、心臓が大きく跳ねた。
(え……ッ。)
頭に浮かんだとある可能性に、動揺しすぎて数歩下がる。
「……? どうした。」
あれから6年の歳を重ね、凛々しさを増したローの表情が怪訝そうに動く。
そんな表情、モモの記憶にあるはずもない。
「……オイ。」
ザ…ッ。
彼の長い脚が、最後の距離を縮める。
「―――ッ!!」
モモは声にもならない叫び声を上げ、その瞬間、クルリと後ろを向いて全速力で駆け出した。
後ろで“幻覚の彼”が呼び止める声が聞こえたけど、必死に聞こえないフリをして、ただ走る。