第33章 再会の指針
歌が、聞こえる…。
コハクが戻るのを待ち切れなかったローは、歌声が聞こえる方へと歩いていった。
(なんだ、ここは…。畑…?)
しばらくすると菜園のような畑へとたどり着いた。
畑には様々な薬草や野菜が植えられているが、どれも異常なほど大きい。
(コハクの母親が育てているのか…?)
中には栽培が困難といわれる薬草や、貴重な薬草も存在している。
これをコハクの母親が育てているとしたら、とんでもない腕だ。
コハクが母親のことを“世界一の薬剤師”と称するのも、わかるような気がした。
会ってみてェ…。
自然とそんな気持ちが生まれた。
『本当にこれで良かったんだと、ふと立ち止まり海を見る。』
ふと歌声が聞こえる方へと目を向けると、ひとりの女がいた。
(あの女は…。)
コハクの母親だろうか。
確かめずにはいられなくて、さらに歩みを進める。
『海平線の向こう側に見える太陽が、今日も静かにのぼっていく。』
美しい歌声だ。
こんな歌声は聞いたことがない。
彼女がジョウロから与える水が、太陽の光に反射してキラキラ光った。
『めぐる季節を目にするたび、愛したあなたを思い出します。』
ふわりと風が舞い、彼女のキャラメル色の長い髪を揺らした。
若い、女だ。
きっと、ローよりも若い。
もしかしたらコハクの姉かもしれない。
コハクはなにも、母親と2人暮らしとは言っていない。
姉がいても おかしくはないだろう。
『それでもわたしは後悔しないよ。この道を…君のいないこの道を。』
なんて幸せそうに唄うのだろう。
彼女の歌に植物たちが喜び、息づいているのがわかる。
こんなふうに、植物を育てる女を見たことがない。