第33章 再会の指針
「さて…と。」
収穫や害虫取りをサルたちにお願いして、モモは水のたっぷり入ったジョウロを振り撒いた。
サワサワとした優しい水が、薬草たちを濡らす。
気持ちよさそうに息づく彼らがとても愛おしい。
もっと元気になってくれるよう、歌を唄いながら水を撒く。
この島に住む人間は、モモとコハクしかいない。
だから唄うことに気兼ねする必要もないのだ。
でも…。
大きな声で唄いながら、モモは考える。
(コハクには、悪いことをしているわ。)
本当なら、たくさんの友達に囲まれて、笑顔の絶えない生活を送っている年頃。
それがどうだろう。
友達はいないし、生活のために狩りやら、モモの手伝いやら。
とてもじゃないけど、年相応の生活とは言い難い。
コハクはこの島での生活が幸せだと言うけれど、それは違うと思う。
外の世界を知らないから、そう思えるだけだ。
友達が出来ず、外の世界を知らないコハクは、まるで声を封じたばかりの…あの頃の自分のよう。
(それは、ダメ…。)
自分と同じような想いを、愛しい息子にさせてはいけない。
モモは次にメルディアが遊びに来たら、コハクを島の外へ連れて行ってもらおうと考えていた。
きっとコハクは反対するだろうが、そこはどうにか説得してみせる。
誰に似たのか、コハクはとても心配性なのだ。
【船長はほんと…、過保護だよなぁ。】
ふと、遠くの海にいるであろう、仲間の声が蘇った。
(ほんと、そんなところまで似なくてもいいのにね…。)
懐かしい想いに、クスリと笑ってしまった。
ザク、ザク…。
「……?」
考え事をしていたものだから、背後に近づいてくる足音に気がつくのが遅れた。
きっと、コハクが遊びから帰ってきて、手伝いにやってきたのだろう。
だって、この島には自分の他に彼しかいないのだから。
そんなふうに思っていたから、その足音がコハクのものより重みがあることになど気がつかなかった。
モモは歌を止めて振り返る。
「コハク……?」
振り向いた瞬間、モモの時間が止まった。