第33章 再会の指針
『あの海の向こうが羨ましく思えても、やっぱりわたしは、この道しか選べないから。』
なぜだろう、振り向いて欲しいと思うのは。
なぜだろう、彼女の瞳が、金緑色をしていると思うのは。
『それでも今日は風が吹くだろう。全てがみんな、辛いわけじゃない。海の向こうにいけなくても…、明日は良い日になれ。』
彼女の歌を聞いて、固く閉じていた蕾がゆっくりと花開く。
その花を、華奢で白い手が愛おしそうに撫でた。
『頑なにしか生きられなくても、そんな君が大好きさ。』
名前はなんと言うのだろう。
彼女も薬剤師なのか。
聞きたいことが、山ほど溢れてくる。
『だから、涙が零れ落ちても…、明日は良い日になれ。』
彼女の振り撒く水が、小さな虹を作った。
虹の中を舞い唄う彼女は、まるで妖精のよう…。
『明日は、良い日になれ。』
気になって仕方ない。
どうしてかも わからない。
顔が、見たい…。
ザク、ザク…。
木の葉を踏み鳴らして近づくと、それに気がついたのか、歌が止まる。
そして、彼女はゆっくりとこちらを振り返った。
「コハク……?」
振り返った彼女の瞳は、思い描いた通りの金緑色。
しかし、エメラルドのような その瞳がローの姿を映し出したとき、彼女の顔から微笑みが消え去った。
ガラン…ッ。
スルリと手からジョウロが落ち、彼女の足元を濡らす。
たった数メートルの距離。
あとほんの少し歩み寄れば、彼女の下へ行けるだろう。
だけど、ローは動かなかった。
いや、動けなかった。
たかだか数メートルの距離。
でも、この瞬間、
確かに2人の時は止まったんだ。