第5章 あなたになら
モモが正式に一味の仲間に入ってから数日が経った。
船の外にある小さな薬草のプランター畑の前でモモはため息を吐いていた。
(なんだってあの人は、わたしに構いたがるのかしら…。)
この船に再び乗ることになってからというもの、ローはモモを傍に置きたがった。
用事があるときはまだいい。
でもローは何もないときでもモモを呼びつけるし、スキンシップ…と呼ぶにはどうかと思うほど過度なちょっかいを出してくる。
さすがに初日に行われた『お仕置き』なるものはあれ以来なかったが、ハグやキスはしょっちゅう求めてくる。
っていうか、勝手にされる。
でもモモが一番参っているのは就寝時だ。
初日は流されてしまったが、ああいうのは良くない。
モモは眠るとき、必ずソファーを使っているのだが、朝起きると決まってベッドでローに抱かれているのだ。
おかげで朝から心臓に悪い。
寝てる間に移動させられているのだと気づいてからは、ローより先に寝るものかと思ったが、彼の夜更かしに付き合いきれず、ついつい先に眠ってしまう。
(…そういうのは、恋人同士がするものだわ。)
ローと自分は、そういうものではない。
彼はただ、薬剤師である自分を気に入って船に留まらせたいだけ。
ちょいちょい彼はきわどい発言をするけど、本気にしちゃいけない。
別に恋愛感情があるわけじゃないと思うから…。
(わたしだって…、別に、ローのこと…。)
ズキン
なんだか胸が痛む。
気を取り直すようにモモは薬草を一枚千切って口の中へ入れた。
(やっぱり、陸地で育てるより薬効が弱いわね。)
いくら潮風に強い薬草と言えども、陸地の畑で育つものとは比べようもない。
こればっかりは仕方のないことだ。
(歌を、唄えば…。)
『慈しみの歌』を唄えば、草木はたちどころに元気いっぱい成長する。
モモの母はそうやって薬草を育て、薬にしていたのだ。
母の薬はどんな高価な薬より効くと言われ、遠方からわざわざ買いつける客もいたほどだった。
もちろん母の薬剤師としての腕も良かっただろうが、薬効の高さは歌の効果だと思う。
(いつか、わたしも…。)
自分の歌で育てた薬草で薬を作りたい。
それがモモの夢だ。