第5章 あなたになら
「そっちのクローゼットを空けといたから、時間があるときに詰め込んどけ。」
ローが指差す方向には木製のクローゼット。
「……?」
「ああ、言ってなかったな。この船には空き部屋なんてないからな、お前はここで寝起きすることになる。」
(ふえ!?)
つまり、ローと相部屋ということか。
無理無理と首をブンブン振る。
「じゃあ何か? お前もアイツらと一緒にむさ苦しい男部屋に行くか?」
いや、それは絶対遠慮したい。
(診察室で過ごすから!)
「ほう…、大事な診察室を私物化するってことか?」
「……。」
そう言われていまうと、ぐうの音も出ない。
(でも、あなたと一緒の部屋なんて…!)
「うるせェな、お前に拒否権はねェんだよ。俺が決めたことには従え。わかったな?」
船長室はローの研究室も兼ねているので、この船で一番広い。
それにここなら、モモが仕事をするにも最適だ。
広さと利便性を考えれば、当然の結果と言える。
(うぅ…。わかりました…。)
でもせめて、眠るときはソファーにさせてもらおうと決意を固めた。
「ところで、いつまでそんな格好でいるつもりだ? 誘ってるつもりなら喜んで乗るが。」
ローがニヤニヤと笑う。
恥ずかしさと怒りに傍にあった枕を投げつけてやった。
モモは袋の中からタートルネックのニットとロングスカートを引っ張り出すと、ローに「あっちを向け」と指示してから急いで着込んだ。
「お前はどうにも地味な服が好きだな。」
着替えたモモを見たローの感想がコレだ。
(じ、地味って…。)
確かに否定できないけど!
派手な服や露出の激しい服は苦手だし、保守的なものが好きだけど!
でもそれって女の子に言うセリフ?
「まあ、だが--」
近づいてきたローがモモのタートルネックの首もとを引っ張り中を覗く。
あちこちに昨夜付けたキスの痕が見える。
「余計な露出はしない方がいいな。コレが見えるし、何よりアイツらに見せてやるのは惜しい。」
(や…ッ、ローだって見ないで!)
パシリと腕を振りほどく。
するとローは不機嫌そうに呟いた。
「俺のモンをどうしようが勝手だろうが。いいか、お前は俺の女なんだからアイツらを誘惑なんかすんじゃねェぞ。」
なんの心配か、そんなこと言われなくたってしない。