第1章 唄う少女
「モモ、もう、いいの…。あなたさえ、無事なら…。」
息も絶え絶えに母が言った。
今にもその呼吸が、鼓動が、止まってしまいそうだ。
「いや…おかあさん。おねがい、おいていかないで!」
ひとりにしないで。
母はモモの頭を優しく撫でた。
「モモに唄うな、だなんて、辛いことを言ったお母さんたちが…悪いの。あなたは…歌が、大好き…だものね。」
本当は自由に思い切り唄わせてやりたかった。
「こんな運命を…背負わせて、ゴメンね。」
母の眦から涙が流れる。
「大好きよ、モモ…。」
自分と同じ金緑色の瞳がゆっくり閉じた。
もうどれだけ語りかけても母が応えることはない。
どれだけ声を枯らして唄っても、母が目覚めることはない。
なにが、癒やしの歌…。
この力のせいで両親は死んだのに、今、この瞬間になんの役にも立たない。
大切な人も救えない、こんな力、いらない。
父と母が死んだのは、海賊のせいではない。
全て、自分のせいなのだ。
約束を破って歌を唄ったから。
海賊の手から逃げてしまったから。
自分になんの力も無いから。
二度と、唄うものか…。
モモの胸に、怒りにも似た感情が溢れる。
この先、一生、唄わない。
声も出さない。
そうやって、生きていく。
母の亡骸に寄り添いながら、そう決意した。