第1章 唄う少女
冷たくなった母に抱かれ、一晩大海原を漂った後、モモは運良く貨物船に発見されて保護された。
近くの島に母と共に降ろされ、母はその島の大地で永久に眠ることが許された。
「お前は口が利けないのか?」
「可哀想に、よほどショックなことがあったのだろう。」
周囲はモモに同情し、親身になってくれたけど、モモがこの島に留まることは叶わなかった。
モモの噂がどこからか流れてしまったからだ。
『奇跡の歌を唄う少女がいる』
海賊だけでなく、海軍もその噂に飛びついた。
後で知ったことだが、海軍は前々からモモたちの存在を知っており、研究のためにずっと探していたらしい。
出来れば母の眠るこの島にずっといたかったけど、実験動物や、悪い人たちに利用されたくない。
商船や連絡船に紛れてモモは何年もこのグランドラインを旅することとなった。
数年が経つと、モモの噂は尾ひれがつき、こんなふうに言われるようになった。
『グランドラインには奇跡の歌を唄う、セイレーンがいる』
こうして幻の精霊として追われるようになったモモは、贖罪と自身の安全のために、その後12年の間、一言も口を利くことがなかった。