第33章 再会の指針
「お前の…、母親が?」
「ああ。」
さっきまで、リリアスはないの一点張り。
母親の話はしたがらない。
そんなコハクが急に打ち明けた事実に、ローは不信感を抱かずにいられなかった。
「なぜ、お前の母親がリリアスを持っている。」
「…オレの母さんは、薬剤師なんだ。」
薬剤師…。
なんでまた、こんな島に薬剤師が?
顧客もいなければ、儲けも出ないだろう。
「それが本当だとして、薬剤師がリリアスとどう関係あんだ。」
さっきコハクも言ってた通り、リリアスはクマの伝染病に効く薬草。
まさか、クマ専門の薬剤師でもあるまいし。
「母さんは世界一の薬剤師なんだ。母さんにかかれば、どんな植物も薬に変わる。」
実際、モモはリリアスに眼の疲労回復効果を見いだし、調剤している。
モモの薬は、わざわざこの島に寄る船が出るほど良く効き、人気が高い。
「だから、母さんなら…リリアスを持ってるよ。」
ローは改めて、この目つきが悪く、生意気な少年を見た。
こちらを見返す瞳には、信念の炎が宿っている。
嘘は、吐いてない。
直感的にそう思った。
「…それで? なにが望みだ。」
「……は?」
言ってる意味がわからなくて、コハクは首を傾げた。
「それをわざわざ俺たちに教えるってことは、見返りを望んでんだろ。言ってみろ、可能な限り 叶えてやる。」
つまり、この男はコハクが見返りのために言ったと思っているのか。
それを理解した途端、カッと頬が燃えた。
「ちっげーよッ! 嫌なヤツだな! オレはお前が、仲間のためだって言うから決心してやったんじゃないか!」
なんてヤツだ!
人の一大決心をそんなふうに解釈するなんて…!
だいたい、人の命を盾に、なにかを要求することなんて絶対しない。
モモだって、時折訪れる船に病人がいたら、無償で薬を譲り渡すんだ。
せっかくの決意を踏みにじられた気がして、コハクはローをギッと睨みつけた。