第5章 あなたになら
モモは温もりの中にいた。
(懐かしい…。)
幼い頃、母に抱かれたときのような、繋いだ父の大きな手のようなそんな温かさ。
もっと寄り添いたい、と思ったけど、自由の利かない息苦しさが邪魔をした。
(んん…、重…い。)
胸の辺りに感じる重圧感のせいで覚醒に導かれる。
(う…、なに…これ。)
自分にのしかかる何かを退けようとモゾモゾする。
何かは硬くて温かい。
(……うで?)
それが誰かの腕だと気がつくと同時に、グイッと抱き寄せられる。
頬を同じく硬い胸に押しつけられるような形になって、急激に頭が回り始める。
嗅ぎ慣れた匂い。
もうこの匂いが誰のものか考えなくてもわかる。
(ロー…! な、なんで…!?)
「…うるせェ、…まだ…寝てろ…。」
まだ眠いのか、モゾモゾ動くモモを強く抱き込みながら擦り寄る。
(ちょ、ちょっと…。…あ、あれ…?)
腰に腕を回されて、何かおかしい…と身体の違和感に気がつく。
モモはほとんど服を着ていなかった。
「~~~~ッ!!」
声にならない声を上げ、ローを力の限り突き飛ばす。
「いッ…て。」
ドタッ
ローの腕から脱出することに成功したが、その勢いでベッドから転がり落ちた。
「…何してんだ、お前は。」
頭上から呆れたように声を掛けられる。
モゾリと起き上がるローに大慌てでベッドから毛布を引っ張り、自分の身体に巻き付ける。
「今さらなに恥ずかしがってんだ。お前の身体なら、昨日隅々まで見た。」
顔を真っ赤にし、涙目でジトッと睨む彼女が可愛くて、つい苛めたくなる。
「そんな目をするな。お前の服なら…ほら。」
ローはベッドから下りると、部屋の隅に置いておいた大きな布袋をドサッとモモの前に置いた。
「……?」
中身を覗くと、大量の女物の服がどっさり詰まっていた。
(これ、わたしの…?)
「船の上で生活すんのに着替えがなきゃ困るだろうが。急いで買いに走ったから趣味じゃなくても文句言うなよ。」
正直すごく助かる。
また診療着や借り物の服で過ごしたくはなかった。