第33章 再会の指針
(……なんだ?)
その日、コハクはヒスイと共に背の高い樹の上から海を見ていた。
すると、海面にいきなり真っ黄色の船が現れたではないか。
「あれは…、海賊船…!」
掲げられた海賊旗を確認した途端、コハクは落ちるように樹を降りる。
「きゅきゅ…!」
地面スレスレのところでヒスイが触角を巻きつけ、着地をアシストしてくれるのは計算済みだ。
「サンキュ。…ヒスイ、海賊船だぞ。」
「きゅ…。」
ピリリと2人の間に緊張感が走る。
この島に住む人間は、モモとコハクの2人だけしかいない。
けれど、全く船が訪れないというわけではなかった。
自然豊かなこの島には、商船や貨物船、そして海賊船が物資補給に上陸することがある。
前者の船であれば、自分たちにとっても絶好の物々交換のチャンス。
モモは島で手に入れられない商品を、薬と交換に貰っていた。
割と頻繁にモモの友達であるメルディアが島を訪れ、自分たちに色んな物資を差し入れてくれるが、人工物の無いこの島で生きて行くには、それだけではとても間に合わないのだ。
そして、後者の船であった場合、とても注意が必要だ。
気の良い海賊たちなら交渉の余地があるが、たいていの海賊は凶悪な連中ばかりだ。
息子である自分が言うのもなんだが、モモはとても美しい。
そんな母が海賊たちに見つかれば、子供の自分だって どうなるのか想像がつく。
しかし、コハクたちの家は森の奥深く、島の中心にある。
この島はどこも資源に溢れているため、よほどのことがない限り、奥地まで侵入してくる輩はいない。
だから身を潜めていれば、海賊がやってきても見つかる心配はないが、万が一ってこともある。
もしも母さんの本当の価値を知る人間が、この島に来たら…?
コハクはモモの力を正しく理解していた。
母はセイレーンと呼ばれる珍しい力を持っている…と。
そのため、コハクは海賊がこの島に接近すると、念には念を入れて、ひっそりと動向を窺うことにしているのだ。