第32章 流れゆく時代
いつものように、相棒のヒスイと共に朝の狩りをしたコハクは、獲物を手に母が待つ家へと帰宅した。
「ただいまー。」
何気なく玄関を開けると、ガタガタッと慌てたような物音がする。
「……?」
「おかえりなさい、コハク。」
不審に思って顔を上げると、そこにはいつもの笑顔を頑張って貼り付けた母がいた。
「…どうしたんだよ、母さん。」
「え、なにが?」
あからさまに惚けてるけど、ちょっと無理がある。
だって…。
「泣いてんじゃん。」
「……!」
今気づいた、とばかりにモモは動揺し、ゴシゴシと目元を擦る。
ああ、そんなに強く擦ったら、赤くなってしまうのに。
「い、今…玉ねぎを刻んでて、それで…。」
必死で言い訳するモモの言葉に、チラリとキッチンを見た。
「…アレ、玉ねぎじゃなくてニンニクだけど。」
「……ッ!!」
そんな しまった! みたいな顔しないでよ。
突っ込んだこっちが申し訳なくなるじゃん。
「えっと…、ええっと…!」
次第にテンパっていくモモに、見てるこっちが可哀想になってきた。
「母さん、森でキジを仕留めてきたけど。」
仕方なく追求は諦めて、違う話題を振ってあげた。
そもそも母はよく泣く。
今日もその類のものだろう。
「わァ、コハクが穫ったの?」
「イヤ、ヒスイと2人でやった。明日はオレひとりで仕留めてみせるよ。」
「すごいわ。あなたのおかげで美味しいお肉が食べられるね。」
モモはふわりとコハクの頭を撫でると、手を洗ってらっしゃいと背中を押した。