第32章 流れゆく時代
時間というものは、誰にでも同じように流れる。
例え、トラファルガー・ローの6年間がどんなに激動の日々であったとしても、そんなことは関係なく、時間は誰の元にも平等に流れるのだ。
そう、このシルフガーデンにも…。
シルフガーデンはグランドラインの無人島。
しかし、それは昔の話。
6年前、この島にはひとりの海賊が住みついた。
彼女は身ごもっていた。
荒ぶる海の上で 新しい命を授かった彼女は、海賊船を降り、ひっそりとこの地で生活を始めたのだ。
そして時間は流れ、彼女はひとりの男の子を出産する。
このシルフガーデンには、今、2人の人間と1匹のピクミンが暮らしている。
バサバサ…。
クー、クー。
島の中心部、大きな樹と一体化した風変わりな家に、今朝も郵便カモメがやってきた。
「ありがとう、いつもご苦労様。」
首に下げる集金箱にチャリンと代金を入れ、ついでに畑で駆除した幼虫をご馳走してやる。
バサバサと再び飛び去るカモメに手を振りながら、この家の主…モモは受け取った新聞を手に、家の中へと戻った。
こうして毎朝新聞を読むのは、彼女の日課だ。
今日もいつものように お気に入りの椅子に腰掛け、バサリと新聞を広げた。
そして一面に書かれた大きな記事が、モモの視界を埋め尽くす。
『海賊同盟、天夜叉ドフラミンゴを討つ!』
ドクン…ッ!
ああ…。
新聞を持つ手が、わなわなと震えた。
ああ、ついに…やったのね。
胸の中が熱くなり、涙となって身体の外へ溢れ出る。
見出しに載った“彼”の顔をそっと撫でた。
モモの記憶の彼よりも、隈が濃くなり、精悍さが増している。
とはいえ、隣に写るモンキー・D・ルフィとの“海賊同盟”の写真は、いつも引き出しの奥にしまっており、穴が空くほど見返したので、記憶に新しいというわけではないけれど。
「ロー、おめでとう…。」
新聞を胸に抱き、決して届くことのない祝いの言葉を心から呟く。
「ただいまー。」
「……!」
ガチャリどドアの開く音に、モモはハッと我に返り、新聞を引き出しの奥へと押し込んだ。
「おかえりなさい、コハク。」